🥐第42回 「法律は芸術に負けるのか?!芸術的な落書きなら許される??」
☕ イントロダクション
アパートを出て、ふと見たら、壁いっぱいに見事な絵が描かれていた。
もしも、あなたのアパートの壁に、突然バンクシー級の落書きがされていたら、どう思います?
「やっぱり、要らないな。」と、すぐ消してもらうか。
それとも、しばらく腕を組んで眺めてから、
「やっぱり、かっこいいな……。」
と残そうと思うか。
芸術として価値があれば、無断で描いても許されるのでしょうか。
フランスでは、たとえ、あなたの家の壁に勝手にバンクシー級の作品を描かれても、壁への無断の落書き、タグ、グラフィティは、基本的に刑法(Code pénal)の「他人の財産の破壊・毀損」扱い。
しかし、もし、あなたが、その絵を気に入ったなら?
パリ、13区、キラキラの観光地とは程遠い、 la Butte aux Cailles(ラ・ビュット・オウ・カイユ)通りにラファエル・ナダルの巨大壁画が現れた。
その絵をめぐって、まさに今、この問いで論争が起きている。
絵を描かれた側は「消してほしい」。
一方、街の人は足を止め、区長までSNSで紹介している。
フランスで、このストリートアートの扱いは、どんなことになっているのだろう?
ちょっと興味をそそられた。
✉️ このニュースレターは…
「これから、フランスはどうなっていくのか?」
既存メディアや一次資料からフランスの社会事情を読み解き、「だから今、何を考え、何をすべきか」を探るニュースレターです。
シリアスなフランス語ニュースも日本語で味つけ。蓋を開ければ「酒の肴」──そんな鯖缶のような通称「鯖刊」です。
🎨所有者などの事前許可なく文字・記号・絵を描いたら犯罪
👆この事実は揺るぎない。
結論、
事前の許可なく、自分の所有物以外の物に勝手に何かを描いたら犯罪。
花を描いても、ナダルを描いても、世界を驚かせる傑作を描いても、他人の壁は他人の壁。
なので、
ある日突然、あなたの家やアパートの壁に落書きが現れたら、
- 写真をとって、日付が分かるようにする。
- 集合住宅なら、syndic、マンション管理会社に連絡
- 被害届と保険の手続き
この手順が一般的。
犯人が分からなくても、その場合は、
porter plainte contre X
氏名不詳者を相手に被害届を出す
住宅保険の対象になることもあります。
「消してほしいだけ」の場合、訴えなくても、公共で、「落書き除去サービス」がある場合も多い。
パリの場合は、「パリ市、落書き除去サービス」です。
じゃぁ、描いた側には、どんな罰が待っているかというと、
大ざっぱに分けると、こんな感じ。
簡単に消せるなど、被害が小さい場合
最高 3,750ユーロ(約64万円)の罰金と、清掃など社会の役に立つ仕事をする罰が科される場合もある。
消すのが難しく、壁を大きく傷めた場合
最高 2年の刑務所に入る刑と、30,000ユーロ(510万円)の罰金。
歴史的な建物に描くなどの場合
さらに重い罰になることがある。
基本は、壁にどれくらいの被害を与えたかで変わる。
さらに、罰金と、損害賠償はまた別。
ということは、罰金を払った後、賠償金も払わないといけないケースもあるということ。
意外に見つかると、リスクのある罪ですね。
💝もし、その落書きが気に入っちゃったら?
その落書きを残す方向で考えることはできる。
しかし、「無断で書いた罪」は変わらない。
つまり、無断である以上、罪は罪。
あとで喜ばれても、「描く前に許可をもらっていなかった」という事実と、
持ち主が許したり、被害届を取り下げたりしても、検察が捜査・訴追を続ける場合もあるという。
つまり、壁に絵を描く行為が正当化されるためには、
単純に、
描く前に、権限を持つ人から許可をもらうこと。
残念ながら、あとから気に入ってもらえても、最初から許可があったことにはならない。
この場合、一戸建てなら、話は比較的簡単かもしれない。
ところが集合住宅の壁は一人の住人の持ち物ではなく、建物全体の共有部分。
あったり前だが。
つまり「店のすぐ横の壁だから、うちの壁だろう」は通らない。
たとえ、壁に店がくっついていても。
そしてパリで、その「まさか」が起きた……。
それが、、、👇
🎾ナダルの壁画
Le Parisienによると、この巨大ナダルの壁画は、その壁の前にあるカフェのオーナーが、6月下旬に、「Rafamon」というブラジル人アーティストに頼んで書いてもらったとある。
しかし、写真を良く見ると、
書かれた壁は、となりの小さな集合住宅の壁。
カフェのオーナーは、壁の持ち主ではないのだ。
さらに、描いたのはRafamonさんだが、
Rafamonさんは、カフェのオーナーに頼まれている。
そして、壁の所有者、マンションの住人たちは、事前に知らされていないし、許可も出していない。
つまり、この絵は、どう転んでも「違法」。
マンションの管理組合は、壁画の全面消去を要求している。
「このオーナー、法律知らなかったとか?ま、まさかそんなことは…」
と思わざるを得ない。
今のところ、壁の持ち主たちは、「絵の消去願い」を出しているだけで、「訴える」とは言っていない。
ただし、場合によっては、壁の消去・修復費用をカフェのオーナーに全額請求すると言っている。
📸ところが街はナダルを歓迎?
ここで話をややこしくしたのは、この壁画が、まったくの不評ではなかったこと。
ただ、このビュット・オー・カイユの落書き地区は、もともとストリートアートで知られていて、プロの写真家が、写真の撮り方講座を行うような場所。
壁画を目当てに来る人もいて、今回の騒動が報じられると、ナダルを見に来る人はむしろ増えたという。
そして、13区の区長も、自身のFacebook で、紹介してしまっている。
💚💛 ストリートアート制作中
ブラジル人アーティストのRafaMonが、現在ビュット・オ・カイユで制作中。
ジダンを描いた彼女が今回たたえることにしたスポーツ選手は、誰でしょう?
ただ、この、壁画が描かれている時点では、壁の持ち主たちに、了解を得ていない」という事実を知らなかったと言っている…。
「おいおい…」とツッこみたくなるところ。
しかし、どれほど人気が出ても、壁の所有権が観光客へ移るわけではない。壁の持ち主たちには、撤去を求める権利がある。
はたしてナダルは生き残れるか?
6月に消去の申請が申し込まれたようだが、9月中旬の時点で、まだ絵は残っている。
今後の行方に注目してみたい。
🏖️マルセイユのパニエ地区
マルセイユにも、ストリートアートで有名な地区がある。
パニエ地区(Le Panier)とよばれるところで、広さは80,000㎡!!
およそ25メートルプール250個分。
解説付きのストリートアート・ツアーもある。
けれども、その始まりは「好きな壁に勝手に描く」ことではなかった。
少なくともこの壁画活動では、地元の人間が近隣に話を通し、使われていない壁から始めたということ。
もちろん、その後すべてが問題なく進んだわけではなく、許可のない壁へ描いてしまって、苦情も出たという。
それでも、2012年から続く活動が街の名物にまで育った背景には、地元へ話を通すという最初の一歩があった。
やっぱり、絵のうまさではない。
最初に許可をとることって重要ですね。
でもそこから、あれだけの広さに発展するとは驚きです。
❤️バンクシーの場合
バンクシー(Banksy)は、最初から謎のステンシル芸術家だったわけではない。
1990年代のブリストルで、他の若者と同じようにタグやフリーハンドのグラフィティを描くところから始まっている。
本人の著書に出てくる有名な逸話では、
若いころ、列車へ落書きをしていて警察に追われ、ごみ収集車の下に身を隠したとき、車体に型紙で素早く記された番号を見て、「これなら、もっと早く描ける」と思いついた――それがステンシル技法へ移るきっかけだった、という。
この話にはバンクシーの本質がよく表れている。
つまり、
捕まらないよう、素早く描く。
身元を隠すため、別名を使う。
つまり、少なくとも彼のストリート活動の出発点には、
「許可を取って、堂々と描く」
という発想はなかった。
2000年代に入るとバンクシーは有名になり、やがて世界的なアーティストになった。
すると、同じ「勝手に壁に描かれた絵」なのに、周囲の反応がひっくり返る。
普通の落書きなら、
「消せ!」
となるところが、
バンクシーだと分かると、
「消すな!」
になった。
さらに、透明な板を取り付けて、保護する作品まで現れた。
2026年3月には、ロイターが「バンクシー」とされる人物の身元について大規模な調査報道を発表した。
それでも本人は、現在も公には正体を認めていない。
顔を隠し、許可を取らず、警察から逃げながら描いていた若者が、
いまでは、勝手に描いた壁を誰かが透明板で守ってくれる存在になった。
こうして見ると、
少なくともバンクシーの場合、
法律は、ちょっと芸術に屈しているように見える。
🍹エピローグ
「法律は芸術に負けるのか?!芸術的な落書きなら許される??」
と、すごいタイトルをつけてしまいましたが、
バンクシーまで行けば、たしかに法律が芸術に屈しているようにも見える。
勝手に描かれたはずの絵を、今度は消されないように透明板で守ってるし。
ここまで来ると、もう「落書き」なのか「芸術」なのか、その境目はかなり怪しい。
でも、少なくともパリでは、まだ法律のほうが勝っている。
芸術的な落書きでもやっぱり許されません。
許可をとってから、堂々とやりましょう。
特に、あの商店のシャッターに描いてあるやつ。
やるなら、許可をとって、もっと粋のある絵を描いてくれないかな、と。
ということで、
落書きをされた場合の対処法、落書きをして捕まった場合の刑罰についてお伝えしたかったのですが、
ここで、もし、防犯用にカメラをつけたら?
という素朴な疑問が浮かんだ。
しかし、意外な事実が判明。
あなたが店舗の持ち主で、
「落書き対策に防犯カメラをつけよう」。
そう思っても、店内カメラと、店外カメラでは、規則がだいぶ違う。
まず、カメラに映る範囲は、店先のごくごく限られた範囲。
さらに市長への通知と県知事の許可が必要。
パリならパリ警視庁が窓口になる。
そこでの映る範囲チェックで、許可が下りなければシャッターを見張るカメラは設置できない。
しかも、
- カメラ設置を知らせる案内板が必要
- 映像は通常数日、原則1か月以内で削除
- 従業員への通知は必須
- もし、被害にあっても、映像はどこにも公開せず被害届とともに警察へ渡す
などなど、細かい規定がいっぱい。
つまり、店を守るカメラであっても、通行人の私生活まで勝手に映してはいけないのだ。
なかなか落書きに対抗する措置には限界があるんですね。
🤓ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
ストリートアート、あなたは好きですか?
私はそんなに興味はないけど、絵による、みたいなところはあります。
でも違反じゃなくて、初めから交渉してるマルセイユの例は少々驚きました。
合法的にやると、やっぱりこれだけ拡大するんだなと。
ぜひ、下にある吹き出しマークからコメントをお寄せください(コメントにはログインが必要です)。
また、このニュースレターでは、「ここが気になった」という一文に線を引き、その部分へコメントできます。何も書かずに「コメント」ボタンを押す、ハイライトだけの反応も大歓迎です。
あなたがどこに引っかかったのか、とても参考になります。
「とりあえず応援!」という方は、ハートマークを押していただけるだけでも、十分励みになります。
それでは、また来週の土曜日に。お会いしましょう、ね?
参考資料:
Le Parisien:Visitez Paris autrement : la Butte-aux-Cailles dans l’objectif
Service Public:「Vandalisme(器物損壊)」
Banksy『Wall and Piece』
Reuters「In Search of Banksy」
CNIL「La vidéoprotection」
100人以上の方達が購読中
いつでも購読解除可能です