🥐第38回「プーチンは、なぜ今、始めて択捉島に降り立ったのか?」

2017年、フランスの日本研究者セリーヌ・パジョンは、中国が尖閣方面で動いたとき、ロシアが北から日本を牽制するシナリオを紹介していた。あれから約10年。中露の共同演習と北方領土の軍備強化が進むなか、今回の訪問は何を意味するのか。台湾有事と北海道、そしてフランスの対応まで考える。
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コモサバ
2026/08/22
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☕イントロダクション

今回は、いつもの「フランスから見たニュース」から、少しだけ外れるかもしれません。

それでも、どうしても自分の意見を書きたいと思った理由があります。

いつも私のニュースレターを応援してくださっている、キタノドロップさんという方がいます。彼が暮らしているのは、北海道。



北方四島は、北海道のすぐ北東にある。

その一つ、択捉島に、プーチン大統領が初めて上陸しました。

なぜ、今なのか。

もちろん、私の考えが杞憂に終わる可能性は高いと思います。

けれど、ロシアが北方四島の軍備をさらに増強すれば、北海道にとっては、喉元にナイフを突きつけられるのと変わらない。

今回のプーチン訪問は、単なる領土問題なのか。それとも、日本やアメリカ、さらには中国に向けたメッセージなのか。

今回は、私なりの見立てを存分に書かせていただきます。


✉️このニュースレターは…

いつもは、

「これから、フランスはどうなっていくのか?」

を、既存のメディアや一次資料から読み解き、フランスの未来を予想しながら、「だから今、何をすべきか」を考えていくことを目的として書いていますが、今回は、プーチンの動きをフランスはどう捉えているのか、プラス私の個人的な見立てを書きました。

K子とコモサバの会話形式で、難しい話題もとことん分かりやすく。シリアスなフランスのニュースも、日本語でひと味つけてお届けします。

登場人物はフィクションですが、背景にあるニュースや事実はすべて現実に基づいています。

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⛩️フランスから見た、北方領土の扱い

フランス紙『ル・モンド』は、1855年の下田条約で日露間の国境が択捉島の北に定められた後、1945年にソ連軍が北方四島を占領した経緯を紹介している。

さらに、国際法学者エルネスト・デ・ラ・グアルディアは、1991年に『フランス国際法年報』へ発表した論文で、1951年のサンフランシスコ講和条約は、日本が放棄した「千島列島」の範囲も、その領土の帰属先も明記しなかったと指摘している。


コモサバ=フランスに長期生息中のサバ

K子(ケイコ)=その友人でニュースオタク


コモサバ:

まず、1855年の下田条約について、教えてください!

K子:

1855年2月7日、日本とロシアが静岡県下田で結んだ「日魯通好条約」、通称「下田条約」のこと。

両国間の国境を初めて正式に定めた条約で、国境線は択捉島と、その北にある得撫島の間に引かれた。

つまり、現在の北方四島は日本側、得撫島から北の千島列島はロシア側とされた。

しかも、北方四島は日本が戦争によってロシアから奪った領土ではない。両国の交渉によって平和的に国境が定められたことが、日本の領有権主張の重要な根拠になっている。

ただし、日本人やロシア人が進出する以前から、この地域にはアイヌ民族が暮らしていた。この点は、国家間の領土問題とは別に押さえておく必要がある。

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コモサバ:

でも、北方領土って1945年にソ連軍に占領されちゃったんですよね。

で、フランスの文献を読むと、

その後、日本はサンフランシスコ講和条約で「千島列島」に対する権利を放棄した。

ところが、その「千島列島」がどの島までを指すのか、さらに放棄した島々がどの国に帰属するのかは、条約に明記されていなかった、ということ?

K子:

そう、1991年に『フランス国際法年報』へ論文を発表した国際法学者エルネスト・デ・ラ・グアルディアは、1951年のサンフランシスコ講和条約が「千島列島」の範囲も、放棄された領土の帰属先も明記しなかったと指摘している。

なので、フランスは北方領土が、日本の領土であるとも、ロシアの領土であるとも言い切らず、中立的な立場を取っている。


参考記事:

Le Monde:Le Japon sous le choc après une visite de Vladimir Poutine sur des territoires disputés du sud des îles Kouriles


🐼背後にいる中国の影

ウクライナをNATO諸国やアメリカが支援しているように、ロシアの背後には、中国と北朝鮮がいる。

ロシアは中国へ石油や天然ガスを輸出し、中国からは機械、電子部品、ドローン関連部品など、必要物資を調達している。北朝鮮からは、弾薬や兵員による、さらに直接的な支援を受けている。

ウクライナ侵攻が長期化するなか、中国はもはや、ロシアが国際的な孤立と経済制裁に耐えるために欠かせない後ろ盾だ。

そして、ここからは、あくまで私個人の見立てだと断っておきたい。

コモサバ:

今回、プーチン大統領が択捉島に降り立った背景には、将来、中国が台湾侵攻に踏み切ったとき、アメリカがどこまで動くのかを探る狙いもあったのではないかと思います。

K子:

確かに、ワシントンは、プーチン訪問の翌日、「北方領土に対する日本の主権を認め、日本への支持は揺るがない」と即座に応答したが、それはあくまで言葉による支持。

米軍の出動や日米安全保障条約の適用には一切言及していない。

実際に危機が起きたとき、アメリカがどこまで軍事的に動くのか、その核心は、依然として曖昧だ。

コモサバ:

アメリカだって、中国と直接戦いたくはないですよ。

K子:

戦争は、始めるよりも終わらせる方が、はるかに難しい。

近年のイラン情勢を見ても、アメリカは当初、直接介入に慎重だった。

にもかかわらず、イスラエルとの同盟関係や戦況の変化によって、次第に関与を深めたとの見方もある。

同盟国を支えることと、自国軍を直接戦闘に参加させることの間には、大きな隔たりがある。

コモサバ:

つまり、中国が本当に知りたいのは…

K子:

アメリカは実際に中国軍と戦う覚悟があるのか。


参考記事:

EURONEWS:Washington soutient la souveraineté japonaise sur les îles disputées après la visite de Poutine


⚔️10年前に指摘されていた「陽動作戦」

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©Institut français des relations internationales Céline Pajon フランス国際関係研究所(Ifri)の日本・インド太平洋研究責任者、セリーヌ・パジョン氏

2017年、セリーヌ・パジョンは、日本が恐れていたシナリオとして、中国が尖閣方面で攻撃に出た場合、ロシアが北から日本を引きつける「陽動戦略」を紹介していた。

ただし当時、日本の防衛関係者は、中露が実際に共同作戦を行っているとは見ていなかった。

あれから約10年。

ロシアの中国依存はさらに深まり、2017年にはまだ仮説だった「北から日本を牽制するロシア」を、もう一度検討させる出来事が、今回のプーチンの択捉島訪問である。

ただし、台湾有事を想定した中露の共同作戦だと断定できる証拠は、現時点では確認されていないが。

コモサバ:

とはいえ、中国とロシアで、軍事共同演習とかいっぱいやってますよね?

K子:

今では中露は日本周辺で、艦艇の共同航行や軍事演習、爆撃機の共同飛行を繰り返している。

コモサバ:

それから北方領土へのロシアの軍備も拡張してますよね?

K子:

そう。ロシアは国後島と択捉島に地上軍を置き、戦車、装甲車、火砲、対空ミサイル、偵察用ドローンなどを配備している。

さらに2016年には、択捉島に地対艦ミサイル「バスチオン」、国後島に移動式地対艦ミサイル・システム「バル」を配備している。

一部の地対空ミサイルはウクライナ戦線へ転用されたとみられるが、軍事施設の整備と装備の近代化は続いている。

つまりロシアは、北方四島の実効支配を軍事面から固めている。

コモサバ:

国後島と択捉島にすでに地上軍がいるんですね…。

K子:

2017年には「中露の連携を示す証拠はない」とされていた仮説だが、現に2026年には「連携を懸念せざるを得ない安全保障環境」に変わったと言えるだろう。


参考記事:

Ifri:Céline Pajon Céline 「Japon-Russie : les limites d’un rapprochement stratégique」


🎤マクロン大統領のシャングリラ会合演説

2025年5月30日、シンガポール訪問で、マクロンは次のような内容の演説を行った。

ロシアがウクライナの領土を力で奪うことを国際社会が許したら、台湾やフィリピンをめぐる将来の危機に、どのような原則で対応できるのか。世界秩序は地域ごとに別々に存在するものではない。

マクロンはここで、「フランスは台湾問題を、遠いアジアの局地紛争ではなく、主権・領土保全・航行の自由という世界秩序の信頼性に関わる問題」と訴えている。

コモサバ:

「世界秩序の信頼性に関わる」とはいえ、フランスが参戦することはないですよね?

K子:

「参戦しない」とまでは断定できないが、フランスには台湾を防衛する条約上の義務はない。

つまりマクロンの発言は、参戦の約束ではなく、中国に対する政治的な警告どまり。

参考資料:

Élysée:Discours du Président de la République au dialogue du Shangri-La à Singapour.



📜では「フランスは何をするのか?」の複数シナリオ

フランスでは、台湾有事にどう対応すべきか、複数の専門家が検討している。

第一のシナリオ|フランスの限定的な関与

パジョンとバシュリエは、台湾海峡で危機が起きても、フランスには大規模な対中戦闘の中心を担う軍事力も、台湾を防衛する条約上の義務もないとみる。

一方、太平洋の領土と自国民、海上交通路を守る必要があり、完全な傍観者でもいられない。

問題は、「インド太平洋国家」というフランスの野心に、実際の軍事力が追いついていないことだ。

出典:ジェレミー・バシュリエ、セリーヌ・パジョン「La France dans l’Indo-Pacifique. Pour une posture stratégique pragmatique」Ifri『Focus stratégique』第117号、2023年10月10日。


第二のシナリオ|フランス軍は自国民を退避させる

シモン・メネによれば、台湾海峡で紛争が起きた場合、フランスが計画すべき軍事行動は、主としてRESEVACと呼ばれる在留フランス人らの退避作戦になる。

つまり、フランス政府が最初に迫られるのは、中国軍と戦うかではなく、危険地域から自国民をどう逃がすかという問題だ。

出典:シモン・メネ「L’Asie du Sud-Est face à un scénario de conflit à Taïwan」フランス戦略研究財団(FRS)、2024年4月16日。


第三のシナリオ|欧州は紛争を未然に防ぐ

アントワーヌ・ボンダズは、台湾海峡の平和を米中だけの問題にしてはならないと訴える。

欧州に期待されるのは台湾防衛戦争の主力になることではなく、武力による現状変更を認めない姿勢を示し、中国に侵攻の政治的・経済的代償を認識させることだ。

欧州の役割は、「戦争に勝つこと」より、まず「戦争を起こさせないこと」にある。

出典:アントワーヌ・ボンダズ「Les Européens ont un rôle à jouer dans la prévention d’un conflit dans le détroit de Taïwan」フランス戦略研究財団(FRS)Note n°05/2021、2021年3月8日。


コモサバ:

でもフランスは、太平洋にも軍を置いていますよね?

K子:

フランス領ポリネシアには約950人の常設部隊があり、海兵歩兵部隊のほか、監視フリゲート艦「プレリアル」、支援艦「ブーゲンビル」、哨戒・輸送機などを配備している。

が、主な任務は領海監視、違法漁業や密輸の取締り、災害救援。空母や大規模な航空戦力が常駐しているわけではなく、台湾有事に単独で本格参戦できる規模ではない。

コモサバ:

じゃあ、実際に動くには本国からの増援が必要ですか?

K子:

そうなる。ポリネシアの輸送機は航続距離も搭載量も限られ、西太平洋へ移動するだけでも数日と途中の補給拠点が必要になる。フランス上院も、現在の兵力は広大なインド太平洋に対して不足していると指摘している。

コモサバ:

とはいえ、フランスは太平洋に領土を持っってる関係で、オーストラリアやインドとの協力体制もありますよね?

K子:

ある。特にオーストラリア、ニュージーランドとは「FRANZ協定」を結び、南太平洋で災害が起きた際、艦艇や航空機を融通して救援物資を運ぶ体制を整えている。合同演習も定期的に行われている。

インドとは1998年以来の戦略的パートナーで、両海軍は「ヴァルナ」と呼ばれる共同演習を毎年実施している。ただし、インドとの協力の中心はインド洋で、フランス領ポリネシアの防衛を直接支える仕組みではない。

しかしだ、港や飛行場の使用、情報共有、補給、自国民退避などで協力できる関係は築かれている。フランスが単独で動くより、はるかに現実的な基盤にはなる。

参考資料:

Ministère des Armées et des Anciens combattants:Forces armées en Polynésie française (FAPF)

Ministère de l’Europe et des Affaires étrangères:Le partenariat FRANZ : pour une coopération au profit des populations sinistrées du Pacifique Sud

🍸エピローグ

サムネ画像に並べた3人は、それぞれの「玉座」を守るために、周辺国へ圧力をかけているように見える。

2022年、まさかロシアが本当にウクライナへ侵攻するとは思っていなかった。けれど、それは現実になった。

もし台湾が現在の台湾でなくなれば、世界情勢は一変する。

台湾周辺や、その南にあるバシー海峡のシーレーンが封鎖されれば、日本へ向かう船は大幅な迂回を迫られるかもしれない。

その混乱に乗じて、ロシアが北から日本への圧力を強める可能性も、完全には否定できない。

習近平にとって、台湾の「統一」は国家的な悲願とされている。

もちろん、ここから先は私個人の見立てだ。

しかし、ウクライナ侵攻が「まさか」から現実になった以上、台湾、北方領土、北海道を別々の問題として眺めていていいのだろうか。

私は今回のプーチンによる択捉島訪問に、その不気味なつながりを感じている。

🤓ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

もちろん、日本が戦場になるなんて、絶対に冗談じゃないと思います。

しかし、中国の軍事力の拡大や日米関係、国際情勢を追っていると、「そんなことはない」と無視しているわけにもいかない気がしてならないのです。もちろん、不安をあおるつもりはありません。

あなたはどう思うでしょうか? 「そんなのは思い込みだ」と感じるでしょうか?

北方領土についても、さまざまなご意見があるかもしれません。

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