🥐第16回 「カンタン・ドゥランク事件を乗り越え、なぜ極左は支持を広げるのか? 」
☕イントロダクション
あなたはカンタン・ドゥランク事件を覚えているだろうか?
| 🥐第12回「学生運動家のリンチ事件、極右と極左の衝突。これは単なる殺人事件ではなくなった?!」 |
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リヨンを震撼させたあの惨劇。
加害側とされる極左団体は、かつてLFI(不服従のフランス)党に籍を置いた人物が創設したもので、事件当時、その側近もまた現場にいた。
側近は、いまなお身柄を拘束されたまま捜査が続いている。
私は、あの惨劇を機にLFIはフランス人から見放され、今回の選挙では支持を落とすだろうと思っていた。
だが、現実はまるで逆だった。彼らは今回の地方選で空前の大躍進を遂げたのだ。
フランスで、いま何が起きているのか。
単なる選挙結果ではない、もっと深く、もっと危うい時代の始まりなのかもしれない。
登場人物:
コモサバ =フランスに長期生息中のサバ
K子(ケイコ)=その友人でニュースオタク
コモサバ:
今回の地方選で、パリやリヨン、それにトゥールーズみたいな大都市で、LFI(不服従のフランス)が予想以上に躍進してるって聞いて驚きました…。
K子:
確かに。メランション率いるLFIは、今やフランス政治において「無視できない怪物」になっている。『フィガロ』紙は「左派がメランションの罠に落ちた」と書いている。
コモサバ:
でも不思議です。メランションって、いつも過激な発言をして炎上してますよね?
反ユダヤ主義的だと批判されたり、過激なアンティファ(反ファシスト)団体との繋がりを指摘されたり……。普通なら支持が離れそうなのに、なぜフランス人は彼らを選び続けるんですか?
K子:
ちょうどいい。今回はその「なぜ?」を、探っていく。
✉️このニュースレターは…
あなたは、フランス語のニュースを聞いて、「なるほど、なんとなく分かった気がする」で済ませてしまうこと、ありませんか?
私はあります。それで痛い目にあったことがけっこうあります(笑)。
だからこそ一度立ち止まり、情報をほどき直し、「いまのフランスを、つまみやすい一皿に盛り直す」という作業を自分に課すことにしました。
シリアスなフランス語ニュースも日本語で味つけ。
蓋を開ければ「酒の肴」──そんな鯖缶のような通称「鯖刊」です。
🧪おまけの実験
同僚のフランス人3人に「選挙に行った?」と聞いてみた。
はたして3人中何人が投票に行ったでしょう?
結果は記事の最後に。
🤝「組まない」はずが、組まなければ勝てないに
LFIは今回の市町村選挙第1回投票で、パリ、リヨン、マルセイユ、トゥールーズ、リモージュなどの大都市で存在感を示し、各地で10%超の得票を記録して予想外の躍進と受け止められた。この結果は左派内の力関係を揺らし、PS(社会党)が掲げてきた「LFIとは組まない」という姿勢を維持しにくくした。各地で右派・極右に対抗するには、もはや組まないでは済まず、組まなければ勝てないという現実が前面に出てきた。
コモサバ:
実際、どこの都市で、PSとLFIが手を組むことになったんですか?
K子:
まずはトゥールーズ、リモージュ、アヴィニョン、クレルモン=フェラン、ブレストだ。ここではPSとLFIの候補やリストが実際に合流した。
コモサバ:
建前はどうあれ、左は勝つために現実的な連携がだいぶ必要になってるんですね...。
K子:
さらに、リヨン、ブザンソン、グルノーブルでも、左派陣営がLFIと合意したとされている。ただし、リヨンをみると、LFI候補が決選投票用のリストに実際に組み込まれてはいるが、政策や将来の運営までは一体化しないという条件付きだったようだ。
コモサバ:
トゥールーズ、リモージュ、アヴィニョン、クレルモン=フェラン、ブレスト、リヨン、ブザンソン、グルノーブル…そうそうたる顔ぶれですね。
逆に、パリとマルセイユは組まなかったんですよね?
K子:
そう。パリとマルセイユは対照的で、どちらもPS系の候補側が地元LFIと手を組まずに決選投票にのぞむ構図になった。つまり今回の争点は、左派がどこまで理念を優先し、どこから勝敗を優先したか、その線引きが都市ごとに露わになった。
参考文献:
Le Monde : LFI makes unexpected breakthroughs in French municipal elections
MEDIAPART : Premier tour des municipales : le pari stratégique réussi des insoumis
📱TikTok世代とフランス版ひろゆき
今のLFIを支えているのは、メランション一人じゃない。次世代のスターたちが続々と育っている。例えば、ダヴィッド・ギロウ(David Guiraud)という若手議員。彼はSNSの使い方が天才的で、TikTokやYouTubeで「切り抜き」動画が加工されて拡散されている。
LFIは比較的若い支持層(と言っても30代から40代)を持つ政党として語られることが多い。SNS上でも存在感があり、従来型の政治家とは違う印象を与えている。
コモサバ:
数百万回再生って、 政治家の動画としては異例じゃないですか?
K子:
ダヴィッド・ギロウは「新しいフランス(Nouvelle France)」という言葉をよく使う。これは、多文化主義を受け入れ、既存の権威や人種差別にノーを突きつける若者たちのことだ。
彼は、移民が多く貧困率も高い都市で、完璧にこの層を掴んでいる。
コモサバ:
確かに彼は言ってることが分かりやすくて痛快。たびたび「論破」動画が話題になってますよね。
K子:
そう。LFIの議員たちは、議会での激しい野次やパフォーマンスも辞さない。それが年配層には「品がない」と映るが、若者には「自分たちの代弁者」と映る。この「怒りの代弁者」としてのポジションは、今のフランスでは最強の武器だ。
参考文献:
Le Figaro :Municipales 2026 : comment la gauche est tombée dans le piège de Jean-Luc Mélenchon
📢「騒音と怒り」は計算された戦略
今回の2026年地方選では、LFIはまさに「騒音と怒り」の戦略を成功させた。
第1回目の投票では、メランションが挑発的言説でメディア空間を占拠し、反ファシズムや反人種差別を掲げて都市部の若者や移民系住民を強く動員。その結果、主要都市で10%超を確保し、左派にとって無視できない勢力になった。
さらに第2回目の投票では、自らは前面に出ず、他の左派に提携を迫ることで影響力を拡大した。過激さで核を固め、選挙協力で幅を取る、それが今回の躍進の核心。
K子:
まず理解しなきゃいけないのは、LFIの「騒音と怒り(Bruit et fureur)」という戦略。これは単なる感情的な爆発じゃなくて、緻密に計算された政治手法だ。
コモサバ:
え?あれ、わざと炎上させてるんですか?
K子:
そう考えて間違いない。彼らはあえて物議を醸す発言をし、メディアに叩かれることで、自分たちの存在を常にニュースの中心に置き続ける。例えば、メランションが「ノートルダム大聖堂はイスラムの数学や物理学の知恵のおかげで建てられた」という発言をしたことがある。これは明らかに「挑発」だ。
コモサバ:
確かに、カトリックの象徴であるノートルダムにそんなことを言ったら、反発は凄いでしょうね…。
K子:
でも、これによって彼は「イスラム教徒や移民系の若者たちの代弁者」としての地位を決定的なものにした。万人受けを狙って50%の支持を得るより、20%の熱狂的な支持層を「絶対に裏切らない味方」として固める方が、今の分断されたフランスでは有効だという判断だ。
コモサバ:
なるほど、あえてマスを狙わずに、熱狂的なニッチを育ててるんですね…。
そして、メディアが騒げば騒ぐほど、彼の狙い通りに「敵と味方」がはっきり分かれていくと。
K子:
その通り。今回の地方選挙でも、第1回投票ではこの「極端な主張」でコアな支持層を猛烈に動員した。そして第2回投票では、他の左派政党と「技術的提携」を結ぶ。この「動員」と「合流」の鮮やかな使い分けが、今回の躍進の鍵だ。
参考文献:
Le Nouvel Obs:Municipales 2026 : l’opération réussie (et surprise) de Mélenchon
Le Figaro : Municipales 2026 : comment la gauche est tombée dans le piège de Jean-Luc Mélenchon
🔫LFIが地方選挙で見せた「統治能力」という新兵器
サン=トゥアン(Saint-Ouen)、パリに隣接する街の市長選は、LFIが単なる抗議勢力ではなく、地方統治の争点でも存在感を強めていることを示す。現職の社会党市長カリーム・ブアムランヌは、治安改善や住宅、医療、緑化など具体的な実績を前面に出す。
一方、LFI候補マノン・モンミレルは、街の再開発や高級化の陰で、一部の地区や住民が取り残されてきたと批判し、若者支援、親支援、就労支援、社会住宅の拡充、公共サービス強化を訴える。
怒りの表現だけでなく、生活に密着した対案を示して支持を広げようとしている点が、今回のLFIの特徴として見えてくる。
K子:
LFIはもはや「デモで叫ぶ集団」ではなく、「地方政治のプロ」になりつつある。トゥールーズやリモージュでは、伝統ある社会党を抑えて左派の筆頭に躍り出た 。彼らは具体的な政策、例えば、公共交通の無料化や、学校給食のオーガニック化といった、市民の生活に直結する提案で着実に支持を広げている。
コモサバ:
LFIは理想論だけじゃなくて、実利も提供し始めているってことですか?
K子:
実利の実績というよりは、その提案の仕方がうまい。サン・トゥアン(Saint-Ouen)の例が象徴的だ。ここは社会党(PS)のスター市長カリーム・ブアムランヌが「NYのブルックリンのように」として街を一部高級化させた。しかし、LFIはそこに対抗馬を立てた。「高級でお洒落な街になった影で、家賃が上がって追い出されそうな元々の住民」を見事に取り込んだ。
コモサバ:
なるほど。それは響くかもですね。開発から取り残された人たちにとって、LFIは唯一の希望に見えるかもしれないですし。
K子:
そう。彼らは「格差」というフランス社会の急所を的確に突き続けている。これが、彼らが単なる「炎上集団」で終わらない理由だ。
参考文献:
🦖叩かれるほど強くなる、LFIという「怪物」の正体
カンタン・ドゥランク事件のような凄惨な出来事が起きれば、普通は政党の支持が傷つく。だがLFIは、そうした打撃をむしろ逆手に取った。
彼らは批判や疑惑を「体制側による攻撃」へと翻訳し、「自分たちが叩かれるのは、本当に脅威だからだ」という物語へ組み替えてしまった。
常識的なモラルから見れば信じがたいが、支持者はそこで離れない。なぜなら彼らは、SNSや動画、自前の発信網を通じて、「自分たちは正義のために闘う側で、既存メディアや政府こそが敵だ」という世界観を日常的に共有しているからだ。
つまりLFIの躍進は、単なるポピュリズムの一言では片づけられない。そこには、既存政治が受け止めきれなかった怒り、不安、疎外感の受け皿になっている現実がある。
かつてのフランス政治が「右か左か」という軸で動いていたとすれば、今は「エリートか民衆か」「伝統か多様性か」という、もっと感情的で分断的な対立へ移っている。
その荒れた海のなかで、メランションは徹底した一貫性を武器に、敵を作るほど味方を固める「分断の錬金術」を完成させてきた。だから彼は、たとえ炎上しても沈まない。むしろ攻撃されるたびに、支持の核はさらに熱を帯びる。
いまフランスで起きているのは、一政党の選挙的成功というより、モラルよりも、生活の苦しさに寄り添ってくれるかどうか。事実そのものよりも、自分の怒りや不安を説明してくれる物語のほうが、人を動かす時代が、フランスで本格的に始まったことを示しているのかもしれない。
💥パリの決選投票
パリでは第1回投票の結果、
グレゴワール 38.04%、
ダチ 25.41%、
シキルー 11.74%、
ボーナゼル 11.33%、
クナフォ 10.38%
となり、10%超の候補が第2回投票へ進めるルールにより、いったんは5人が決選投票に残る形になった。
その後、右派ではダチが中道右派のピエール=イヴ・ブルナゼルと合流した。
さらに極右のサラ・クナフォが撤退したため、右派陣営はダチに一本化された。
一方、左派ではグレゴワールとシキルーは合流せず、両者はそれぞれ独自リストを維持した。この結果、パリの決選投票は、
グレゴワール(社会党・左派)、
ダチ(共和党・右派)、
シキルー(LFI・極左)
の三つ巴になった。
コモサバ:
うわっ、司法問題が取り沙汰されている、ダチとシキルーが残りましたよ…。
K子:
この結果だけでも、フランスがカオスなのが少し分かる。
コモサバ:
右がいいと思ったら、ダチしかいないし、左はグレゴワールとシキルーで票が割れるかもしれないし、パリ市民は誰を選ぶんでしょうね。
K子:
確かに。明日の結果はどうなるかな。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
フランスは、一部ではもうモラルでは歯止めがきかない時代に突入しているのでしょうか。
だとしたら、それに備える必要があるかもしれないな、と個人的には思いました。
ぜひ、コメントをお待ちしております。
「ここが気になった。」というあなたは…… 今日の記事の中で、気になった一行にハイライトが引けます。
線を引いて、その部分に「コメント」していただけると、あなたに刺さった部分が分かって、非常に参考になります。
また、深堀ってほしいニュースがあったら、ぜひ教えてください。
でも…コメントを書くのは、正直ちょっとハードルが高いし、面倒くさい……。
わかります。その気持ち。
「とりあえず応援。」というあなたは…… ハートマーク(いいね)を押してください。 たとえ今回の記事が、面白くても、そうでなくても、あなたのそのひと押しが、来週も書き続ける燃料になります。
では、また来週の土曜日にお会いしましょう、ね?
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