🥐第41回 「フランスには家賃の上限制度がある。なのにパリでは46%の大家がそれを守っていない?!」
☕ イントロダクション
今回、私の目に留まったのは、
パリでは、家賃の上限規制が出来てから、それを超えてる賃貸アナウンスの割合が過去最高になっている。
A Paris, les dépassements de loyer au plus haut depuis la mise en place de l’encadrement
というル・モンドの見出し。
「へぇ、パリの大家って、勝手に家賃を決められないんだ。」
この見出しをみて、真っ先に思ったのが、パリの日本語の無料新聞「Ovni(オブ二)」。
ここは、日本人がフランスで暮らす上で便利な「掲示板」がある。
そこにはいつも「貸し物件」としてのアナウンスが掲載されている。
そこに出ている貸し物件、果たして規制上限の家賃を守った価格なんだろうか?
それとも超えてるんだろうか?
✉️ このニュースレターは…
「これから、フランスはどうなっていくのか?」
既存メディアや一次資料からフランスの社会事情を読み解き、「だから今、何を考え、何をすべきか」を探るニュースレターです。
いつもは、K子とコモサバの会話を通して進む、このニュースレターですが、試験的に今回は、会話形式を取っ払ってみました。
その方が、やっぱりスッキリするかな?と思ったんですが…。
あなたは、どう思いますか?ぜひ、感想などをいただけると嬉しいです。
シリアスなフランス語ニュースも日本語で味つけ。蓋を開ければ「酒の肴」──そんな鯖缶のような通称「鯖刊」です。
🧮この規制どうやって計算されてるの?
調べてみると、この法律ができたのは結構古い。
発端は、なんと12年前の2014年。
パリでは2015年に制度が始まり、一度裁判所の判断で中断。
そして、2019年7月から再びパリ全域で実施されている。
しかし、この法律、規制に分類が色々あって、めちゃくちゃ分かりづらい…。
まず、基準家賃というものがあるという。
基準家賃の+20%増が上限価格
ちなみに、下限もあって、
基準家賃の-30%引が下限価格
そして、どの基準家賃が採用されるかは、
① 場所――パリ80地区を14の賃料セクターに分類
② 家具付きか、家具なしか
③ 部屋数――1部屋、2部屋、3部屋、4部屋以上
④ 建築年代――1946年以前/1946~1970/1971~1990/1990年以降
によって基準が決められている。
そして、そこから導きだせる、
上限㎡単価 × 居住面積
の価格で、「この家賃は高いか安いか、さらに規制をこえてるか」を比べることができる。
💶おおざっぱな上限の価格
先ほどの条件、
① 場所で、「パリ80地区を14の賃料セクターに分類」とある。
なのでここでは、家賃規制の基準上は最も高いセクター1の基準を使い、
② 家具あり、なし
③ 部屋数
④ 築年代 は、2023年時点でパリの主要住宅の約49%が1946年以前。
ということで、それ以前か、それ以降で、大ざっぱにパリのアパートの最高値を見てみると、
1㎡あたりで、ワンルーム、築1970年以前の建物だったら、
家具なし:42.6€/㎡ (約7600円)
家具あり:48.6€/㎡ (約8700円)
1990年以降に建てられた建物なら、
家具なし:45.8€/㎡ (約8200円)
家具あり:52.2€/㎡ (約9300円)
これが、上限。
あなたのアパートの家賃から、共益費などを除いた価格を、面積で割ってみて、42.6€/㎡ ~52.2€/㎡ 以上なら、その価格は違法に高い可能性がある。
1メートル四方で、最大約9300円?!
高っ!!
🛋️掲示板に載ってる貸し部屋はどのぐらいの値段?
例えば、Ovni に載っていたこの物件。
パリ18区新装美2室 21m²
家具付き-洗濯機-冷蔵庫 (すべて新品)
パリ 18区 M°4-13 porte de Clignancourt/St-Ouen
1050 €/月 管理費込
保証金 1000€
9月7日から入居可
天井が高いのでメザニンを入れることもできます。歴史的建造物指定。
この物件は18区の、ClignancourtまたはGrandes-Carrièresならどちらもセクター9。
そして「家具付き・2室・21㎡」として2026年の公式表を見ると、上限は築年代によって次のようになる。
建築年代 | 家具付き2部屋の上限 | 21㎡なら |
|---|---|---|
1946年以前 | 36.0€/㎡ | 756€ |
1946–1970 | 32.5€/㎡ | 682.50€ |
1971–1990 | 35.3€/㎡ | 741.30€ |
1990年以降 | 37.0€/㎡ | 777€ |
つまり、どんな築年代だったとしても家賃本体の上限は最大777€
一番大家側に有利な「1990年以降」で計算しても、
1,050€ − 777€ = 273€
さらに建物が1946年以前なら、
1,050€ − 756€ = 294€
つまり、この物件の場合、家賃上限の最大は、 756€~777€以内。
しかしここに、共同費や、complément de loyer(家賃の上乗せ)を盛ることができる。
complément de loyer(家賃の上乗せ)は、その物件に特別な立地・設備・快適性がある場合に限って、上限を超えて追加料金を取れる例外。
たとえば、非常に珍しい眺望、特別なテラス、同地域の同等物件にはない設備や立地上の利点などが理由になり得るという。
その場合、大家は金額と、その上乗せを正当化する具体的理由を契約書に書く必要がある。
つまり、1,050€の家賃の内訳が、
777€(上限家賃)
+100€(complément de loyer)
+173€(charges)
=1,050€
で、100€の上乗せに正当な理由が付けば、違法とは言えない。
もし、この大家さんが、
家賃本体900€
+charges150€
=1,050€
と言ったなら、
この場合は、本来なら777€が家賃本体の最上限。900€だと、それを超えているので、「問題だ」ということができる。
文面に「新装美2室 」とあるが、これは「1990年以降に建てられた」という意味ではありません。
古い建物をリフォームしただけなら、建築年代は古いままです。
😜あなたの部屋が適正かどうかを知るには?
もちろん、AI に聞いちゃいましょう。
例えば、MixBに載っていた、
パリ15区・Bir-Hakeim、18.5㎡、家具付きStudio、1,200€/月「全込み」。
このアナウンスは、長期の月額募集として掲載され、床面積18.5㎡、家具付き、光熱費は月60€まで込み、「短期応相談」とあります。
この場所はセクター7。2026年公式表で家具付き1部屋の上限を築年代のうち最も高い条件で見ても43.2€/㎡。
すると、
43.2€ × 18.5㎡ = 799.20€
掲載総額は1,200€なので、
1,200 − 799.20 = 約401€
400€以上の上乗せ。
もちろん1,200€には光熱費等が含まれると書かれていますが、
約400€の内訳を光熱費+charges+complément de loyerで説明する必要があります。
その場合、大家さんにしれっと聞くなら、
- 家賃本体(loyer hors charges)はいくらか
- chargesはいくらか
- complément de loyerはあるか。あるなら金額と理由は何か
- 建物の建築年代
これで、物件の適正価格がいくらか分かります。
🤖地方の家賃も、AIに聞けばだいたい分かる
あなたが、パリ以外に住んでいたとしても、上限規制がある都市はあります。
たとえば、日本人向けの「フランス掲示板」で、こんな募集を見つけました。
(とはいえ、2024年のアナウンスなので、参考までです。)
場所:モンペリエ・Saint-Roch駅から徒歩3分
広さ:25㎡
家具付き
専用キッチン・シャワー・トイレあり
家賃:月800ユーロ
夏季:月1,000ユーロ
25㎡で800ユーロ。
これっていったい、高いの?安いの?
土地勘がなければ、さっぱり分かりませんよね?
そこでAIに聞いてみます。
「この物件について調べてください。この地域に家賃の上限規制があるなら、条件から考えられる上限はいくらですか? その上限と周辺の家賃相場を踏まえて、この家賃は高いのか安いのか、分かりやすく説明してください。」
すると、
モンペリエ市では、2022年7月1日から家賃上限規制が導入されていることが分かった。
次に、単純に面積で割ると、
800€ ÷ 25㎡ = 32€/㎡
夏なら、
1,000€ ÷ 25㎡ = 40€/㎡
であると教えてくれる。
ただし、その後はこう帰ってきた。
この数字だけで、
「高すぎる」
「違反している」
とはまだ言えません。
なぜなら、正確に判断するには、
- 建築年代
- 共益費が含まれているか
- complément de loyer(追加家賃)があるか
- 通常の長期賃貸なのか、それとも短期・季節貸しなのか
なども必要だからです、と。
つまり、この4つが借りる前の質問ポイントになる。
しかし、
「公式な住所がないため、家賃ゾーンを確定できません。」
「ただ、説明を読むと、概ね中心部のようです。中心部のZone 1〜2で家具付き1部屋を見ると、築年代による違いを含めても上限はおおむね23〜25€/㎡前後。」
25㎡なら、家賃本体の上限はざっくり、
25㎡ × 約24.5€ ≒ 610€前後
です。
ところが広告は800€=32€/㎡。つまり、通常賃貸だとすると、
800€ − 約610€ = 約190€
を、共益費や正当なcomplément de loyerで説明する必要があります。
そして夏季は、
1,000€=40€/㎡
なので、上限との差は約390€。これは通常の住宅用賃貸として見ると、かなり大きな差です。
25㎡で800€は、長期賃貸ならかなり高め。夏1,000€はさらに高い。ただし、この広告は短期・季節貸しの可能性があるため、上限違反とは断定できない。
いい部屋を見つけたいのは山々だが、法外な値段で借りるのも考え物。特に長期で借りるならなおさら。
そこで、これを知っておくと、まず大家さんに、色々な質問ができます。
🤔もしかして、知らないだけ?
先ほどのル・モンドの記事では、
「2026年の調査では、パリの賃貸広告の46%が家賃上限を超えていた。」
という。
なんでこんなに家賃上限が守られていないのだろう?
しかも今年、特に悪化が目立ったのは、不動産会社ではなく、個人の大家が直接貸し出している物件だったという。
フランス側の記事や報告書を読んでいると、
「制度を守らせるためのチェックが十分ではない」
「借主自身が申告しないと発覚しにくい」
「complément de loyer(追加家賃)が不適切に使われることがある」
など、制度をどう監視するかという問題が出てくる。
実際、パリ市も今後の改善策として、賃貸広告のチェック強化や、complément de loyerの乱用を防ぐための規制強化を挙げている。
もちろん、
「上限を知っているけれど、高く貸している」
大家もいるだろう。
でも、私の感覚は、
「これ単純に、知らずに値段を決めてる大家さんも結構いるんじゃないか?」
ということ。
特に日本人。
先ほどの、
パリ18区新装美2室 21m² のアナウンスには、
歴史的建造物指定
という表記がある。つまり、この大家さんは、complément de loyer(追加家賃)の存在を知っていて、家賃上乗せを自覚している可能性がある。
次の、
パリ15区・Bir-Hakeim、18.5㎡、家具付きStudio、1,200€/月「全込み」。
に関しては、上限800€のところを、400€増し。
これは大家さんがこの400€の内訳を説明しないといけないことを知らない可能性が高い。
この上限制度、上手く使えば、借りる前に、これって高いの?安いの?の判断になるし、交渉のカードにもなるかもしれない。
今、あなたが実際に借りているアパートに対しても、同じく基準が分かるかもしれないし、もしかすると家賃交渉にも使えるかもしれません。
🍸エピローグ
とはいえ、この現在の家賃規制はなんと実験制度。
もし、延長の法律が成立しなければ今年の11月に終了する予定だ。
しかし、現在の住宅相Vincent Jeanbrunが2年間の延長を支持する姿勢に転じている。
延長法案をこの秋に議会審議に持ってくる予定で、現時点では「終了確定」ではない。
つまり、存続か終了かが、まだ政治的に確定していない状態。
11月までに、この制度が延長になるのか、そのまま終了になるのか、またまた目を光らせていきましょう。
🤓ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
この家賃上限制度、あなたはどう思いますか?
でも、パリでは半分近くの大家さんが守ってないっていう現状、ちょっとびっくりしました。さすがパリジャン。
ぜひ、下にある吹き出しマークからコメントをお寄せください(コメントにはログインが必要です)。
また、このニュースレターでは、「ここが気になった」という一文に線を引き、その部分へコメントできます。何も書かずに「コメント」ボタンを押す、ハイライトだけの反応も大歓迎です。
あなたがどこに引っかかったのか、とても参考になります。
「とりあえず応援!」という方は、ハートマークを押していただけるだけでも、十分励みになります。
それでは、また来週の土曜日に。お会いしましょう、ね?
参考記事:
Le Monde:A Paris, les dépassements de loyer au plus haut depuis la mise en place de l’encadrement
パリ市:Encadrement des loyers : tout comprendre sur le dispositif
Préfecture de la région d’Île-de-France:イル=ド=フランス県・2026年家賃基準の公式県令
INSEE: 「Logement en 2023 – Département de Paris」
Ovni:貸し物件 パリ18区新装美2室
Fondation pour le Logement:6e baromètre de l’encadrement des loyers
100人以上の方達が購読中
いつでも購読解除可能です