🥐第33回「フランス司法に『左の手』はあったのか?」
この4人は全員「公金横領」の疑い。だが、右派のルペン、フィヨンは証拠確定で有罪。左のメランションは裁判にすら至らず、中道のバイルーは無罪。☕イントロダクション
2026年7月7日。
欧州議会のアシスタントをめぐる事件で、パリ控訴院は、一審に続いてマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)を有罪とした。
それでも、ルペンは2027年の大統領選に出馬できるという。
その日の夜、ルペンはTF1の20時のニュースに出演した。
そして、こう主張したのだ。
Pour les mêmes faits, Monsieur Mélenchon a bénéficié d’un non-lieu et Monsieur Bayrou a été relaxé.
メランション氏はnon-lieu(裁判にかけない決定)を受け、バイルー氏は無罪になった。
と。
確かに。
メランションの周辺にも、欧州議会のアシスタントをめぐる疑惑があったはずだ。
それなのに、右派のルペンは有罪。
左派のジャン・リュック=メランション(Jean-Luc Mélenchon)は裁判にすらかけられていない。
さらに思い出したのが、フランソワ・フィヨン(François Fillon)だった。
ルペンもフィヨンも右派。
メランションは左派。
もしかして、フランスの司法は右派に厳しく、左派に甘いのだろうか?
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登場人物:
コモサバ = フランスに長期生息中のサバ
K子 = その友人でニュースオタク
コモサバ:
ルペンもフィヨンも右派。メランションは左派。
で、なんとなく右派ばっかりスキャンダルが発覚して失脚。右派を通したくない何かがあるのかなって、ちょっと、勘ぐりたくなりません?
司法は独立していると言うけど、判事にも政治思想はあるでしょうし、「左の息がかかった人」がいても不思議ではない気がしますよ。
K子:
疑問としては分かる。
司法は独立しているというが、判事にも政治思想はある。君の言うように、「左の息がかかった人」がいても、もちろん不思議ではない。
ただ、「同じ事件なのに扱いが違う」と言う前に、確かめなければならないことがある。
誰のお金を、誰のために使ったのか。
そして、その使い方と政治家本人を結ぶ証拠が、どこまで残っていたのかだ。
参考文献:
🔍ルペンとメランション。「同じ事実」は本当に同じか?
コモサバ:
ルペンとメランションの疑惑の入口は似ていますよね?
どちらも、「欧州議会アシスタントのお金を、フランス国内の政党活動に使ったのではないか」っていう。
K子:
入口は似ている。
欧州議会が負担するアシスタントの人件費は、欧州議員としての仕事を支えるためのもの。
問題になるのは、欧州議員の仕事とは関係のない国内政党の仕事をさせ、その給料を欧州議会に負担させてたこと。
RN(ルペンの党)の事件で、パリ控訴院が認定したのは、その仕組みが党内に作られていたことだった。
控訴審で認定された雇用契約は28件。不正は11年以上続き、欧州議会の損害は約280万ユーロ(約5億2,000万円)。
コモサバ:
ご、、、5億?!
でもこれって、ルペン個人が280万ユーロをポケットに入れたわけではないんですよね?
K子:
それは違う。
控訴院も、欧州議員個人の私的な蓄財はなかったと明記している。利益を得たのは政党だ。
ただし、自分の懐に入れていなければ、公金の使い道を変えてよいわけではない。
裁判所は、欧州議会のお金を党の人件費に回す仕組みが、ジョン=マリー・ルペン(父)と、後を継いだマリーヌ・ルペン(娘)の「決定的な推進」のもとで続いたと認定した。
コモサバ:
親子で?!
それは裁かれてしかるべきですね。
参考文献:
🤔なぜメランションは裁判にかけられていないのか
コモサバ:
で、メランション側は?
K子:
メランションは裁判で無罪になったのではない。疑いは調べられたが、本人を被告として法廷に立たせるところまで、証拠がつながらなかった。
捜査の入口になったのは、メランションが欧州議員だった時代の助手たちが、同時にフランス国内の左翼党(Parti de gauche)でも役割を担っていたことだった。
ただし、欧州議員助手が政党内でも役職を持つこと自体は違法ではない。
問題になるのは、その人物が欧州議員のために実際に働いていたのか。それとも、欧州議会から給与を受けながら、国内政党の仕事をしていたのかという点だ。
コモサバ:
つまり、「兼任していた」というだけでは犯罪にならない。
その給料で、実際に何をしていたかが問題だと。
K子:
そう。
欧州不正対策局(OLAF)が中心的に調べたのは、メランションの元助手ジュリエット・プラドスとロラン・マフェイスの二人。
OLAFは、2013年から2017年までの勤務について、
- 欧州議会ではなく、左翼党やGmailのメールを使っていた
- ブリュッセルなどの勤務を前提とする助手でありながら、パリ周辺に住んでいた
- 欧州議員としての仕事と、党首としての活動を区別する記録が乏しかった
といった不備を指摘した。
問題となった雇用費などは、約50万ユーロ(約9,300万円)と評価された。
コモサバ:
50万ユーロ!
それでも、事件にはならなかった?
K子:
約50万ユーロは、OLAFが問題視した助手二人の雇用費などに関する評価であって、裁判所が「50万ユーロが不正に流用された」と認定した金額ではない。
それに、助手たちが実際に働いていたこと自体には疑いがなかった。
問題は「仕事が存在しなかった」ことではなく、その仕事が欧州議員の活動だったのか、国内政党の活動だったのかを区別する記録が十分だった、ということ。
2018年には、欧州議会助手と大統領選挙費用をめぐる二つの疑惑について、LFI(メランションの党の)本部などが大規模な家宅捜索を受けた。
メランションが、
「共和国、それは私だ!――La République, c’est moi !」
と叫んだ、あの場面。
その後も捜査は続いたが、2022年、汚職・金融犯罪を扱う捜査機関は、特定の犯罪を構成することはできなかったと報告した。
そして2026年5月、結局誰一人 ※mise en examen にしないまま捜査が終結した。
※ mise en examenは日本語の「起訴」ではなく、捜査判事が、犯罪への関与を示す「重大または一致した証拠」があると判断し、その人物を正式な被疑者として手続きに参加させる制度。
コモサバ:
つまり、LFI側にも疑問点はあった。
でも、それが犯罪とメランション本人の関与を示す証拠の鎖にはならなかった。
K子:
そう。
同じだったのは、疑惑の入口。
ルペンは証拠を法廷で審理されたうえで有罪になったが、メランションは、被告として裁判にかける段階まで至らなかった。
つまり二人は、同じ法廷のスタートラインには立っていない。
参考文献:
⚖️フランス司法に「左びいきの影響」はあるのか?
コモサバ:
証拠の違いは分かりました。
で、フランスの判事に、左派の影響ってあるんですか?
K子:
実は、「ない」とは言い切れないところもある。
フランスには、左派と位置づけられる司法官組合、Syndicat de la magistratureがある。
実は、2013年には、その事務所に右派の政治家などの写真を侮辱的に掲示した、いわゆる「Mur des cons(アホどもの壁)」の映像が報じられ、大きな問題になった事件がある。
そこには、サルコジをはじめとする主に右派の政治家、ジャーナリスト、知識人などの写真が壁に貼られており、その壁を「アホどもの壁」と名付けていた事が発覚した事件だ。
コモサバ:
えーっ、そんな事件があったんですか?
人を裁く立場の人たちが、自分たちと意見の違う人を、裁判の前から「アホ」に分類していた?!これは、かなり怖くないですか?
K子:
だから大問題になった。
当時の組合委員長フランソワーズ・マルトルは、本人が写真を貼ったとは認定されなかったものの、委員長として掲示の場所を提供し、放置した責任を問われ、公然侮辱に当たるという判断は、2021年に破毀院で確定している。
つまり、
「左派的な司法官は、本当に存在するのか」の問いに対する答えは、
「存在する」だ。
しかし、政治的偏見を持つ司法官の存在はあるが、今回のルペン判決との因果関係はわからない。
コモサバ:
そうなると、メランション事件では、裁判にすらならなかったのだから、司法官は関係ないですか?
K子:
いや、フランスの司法でいう magistrat には、判決を出す裁判官だけでなく、検察官や捜査判事も含まれる。
つまり、裁く側だけではなく、調べる側にも、「左の息のかかった人物」がいた可能性はある。
実際、メランション事件は、法廷に進まなかったからといって、判事が関与していなかったわけではない。
2017年に検察が予備捜査を始め、2018年には司法捜査へ移った。
そこからは、独立した捜査判事が証拠を集め、必要な捜査を警察に指示する。
家宅捜索も行われた。
約8年間続いた捜査が、2026年5月に終了したわけだが、それは「左派だから、そもそも調べられなかった」わけではない。
そのうえで、
- 捜査が不自然に打ち切られた。
- 同じ証拠なのに、LFI側だけ違う基準が使われた。
- 政治家や司法官から具体的な介入があった。
のような、「左の手がメランションを守った」というような事実は、残念ながら出ていない。
一方、ルペン事件の一審判決も、ベネディクト・ド・ペルテュイ判事一人が決めたものではない。三人の裁判官による合議だ。
さらに控訴審では、別の裁判官たちが28件の契約を一件ずつ検討し、証明が足りない期間については一部無罪にもしている。
控訴院でも、何でもかんでも有罪にしたわけではない。
司法官エリック・アルフェンによれば、この左派系組合が職業選挙で得る票は、伝統的に25〜30%程度。ほかに中道系と右派系の組合もあり、司法界が左派一色というわけでは決してない。
コモサバ:
うーん、最初に疑った「左の手」は、完全な妄想ではなかったけど、その手が実際の結論を動かしたと示す証拠は、見つからなかったわけですね。
ま、何かあったとしても、表には出てこないか。
K子:
そういうこと。
参考文献:
Légifrance:Mur des cons事件に関する2021年1月12日の破毀院判決
🐴有罪なのに、なぜルペンは選挙に出られるのか
コモサバ:
ルペンは、控訴審でも有罪になったのに、判決当日の夜には「私は大統領選の候補者です」って言ってましたよね?
有罪なのに、どうして出られるんですか?
K子:
鍵は2025年3月31日の一審判決だ。
ルペンには、4年の拘禁刑、そのうち2年を執行猶予、残る2年を電子ブレスレット付きの在宅拘禁とする刑に加え、10万ユーロの罰金、そして5年間の被選挙権停止が言い渡された。
この被選挙権停止には exécution provisoire 、即時執行が付いていた。
ルペンもこの一審判決に対して控訴したわけだが、通常なら控訴によって刑の執行は止まる。
しかし、この即時執行がついた部分だけは待ってくれない。ルペンは控訴中も、新しい選挙に立候補できなくなった。
ところが先日の2026年7月7日、控訴院は有罪を維持しながら、刑を変更した。
拘禁刑はもともと4年のところを3年に。そのうち2年は執行猶予、残る1年は電子ブレスレット付きの在宅拘禁に変更になった。
そして被選挙権停止は45か月。そのうち30か月は執行猶予となった。
つまり、実際に効力を持つのは15か月。
しかも、この15か月(1年3か月)は2025年3月31日からすでに即時執行されてきた。
先日の控訴院は、その期間を無視すれば、立候補の自由と有権者の選択を過度に損なうと判断した。
つまり、2025年3月31日から、15か月(1年3か月)経過したとすると、2026年6月31日で、刑を全うしたことになる。
だから、判決が出た2026年7月の時点で、一審判決から15か月以上が経過していたため、ルペンは15か月分をすでに終えた扱いになった。
有罪判決は残ったけど、立候補を禁じる期間は終わったから、大統領選に出馬できるというわけ。
コモサバ:
なるほど、良く分かりました。
K子:
さらに、ルペンは破毀院への上告を表明した。
破毀院は事実を一から調べ直す裁判所ではなく、法律の適用や手続きに誤りがなかったかを見る。
上告によって、電子ブレスレットを含む拘禁刑の執行はいったん止まる。
控訴院は、1年の実刑部分を「電子ブレスレット監視付き在宅拘禁」で執行すると決めた。
ただし、この刑には即時執行が付いていない。
上告中は執行が停止されるため、現時点でルペンは電子ブレスレットを着けずに、通常どおり移動できる。
今後、ルペンの上告が退けられた場合、控訴院の有罪判決が確定し、その後、電子ブレスレットを着けることになる。
一方、破毀院が「控訴院の判断には法律上の問題がある」と認めた場合、つまりルペンの上告が認められた場合は、裁判はやり直しになる。
これはルペンが無罪になるという意味ではなくて、別の控訴院でもう一度審理され、新しい判決が出るまでは、電子ブレスレットを着けない。
つまり、「有罪判決は確定していないが、現時点で被選挙権はある候補者」。
これが、今のルペンの状態。
参考文献:
🦝バイルーとフィヨン
コモサバ:
では、ルペンが名前を出したバイルーは?
K子:
確かに、MoDem(バイルーの党)事件も、欧州議会アシスタントの給料が、国内政党の仕事に使われた疑いだった。
ただし、規模はRN事件より小さい。
一審で問題になったのは11件、約30万ユーロ(約5,600万円)。裁判所が最終的に認定したのは10件、約25万ユーロ(約4,700万円)だった。
MoDemという政党や、元欧州議員など複数の関係者は有罪になった。
一方、バイルー本人について裁判所は、複数の行為が彼の承認なしに行われたとは考えにくいとしながらも、彼が架空雇用を直接命じたとする証拠はないとして、無罪とした。
コモサバ:
確かに5億か5000万かっていう桁の違いはあるけど、やってることは一緒か…。
でもここも、有罪にできる証拠が足りなかったと。
K子:
そう。ただし検察側が控訴したため、無罪はまだ確定していない。控訴審は2026年9月9日から10月5日に予定されている。
コモサバ:
じゃ、フィヨンは?
K子:
フィヨン事件は、欧州議会アシスタント事件ではない。
フランス国民議会から支払われた、妻ペネロプらの議会助手報酬に、実際の仕事がどこまで伴っていたのかが問題になった。
いわゆる「ぺネロプ・ゲート」は、契約する側、報酬を得る家族、家計の利益が直結していた。
2024年、破毀院はフィヨン夫妻らの有罪を確定させた。
その後、量刑だけが別の控訴院で審理され、フィヨンは最終的に4年の執行猶予付き拘禁刑、37万5000ユーロ(約7,000万円)の罰金、5年間の被選挙権停止となった。2026年2月に上告を取り下げ、刑も確定している。
コモサバ:
でも、フィヨンは2017年の大統領選に出ましたよね?
K子:
その理由は、報道をきっかけに捜査が始まったばかりで、選挙中は有罪とは決まってなかったから、法的には立候補できた。
しかし、選挙では第一回投票で敗れた。
フィヨンの場合は、裁判所が結論を出すよりずっと前に、有権者が判断することになった。
参考文献:
Le Monde:François Bayrou relaxé dans l’affaire des assistants parlementaires européens du MoDem
🍷エピローグ
- 同じように欧州議会助手のお金が問題になったのに、なぜルペンは有罪になったのか
- なぜメランションは裁判にかけられていないのか
- フランス司法は右派に厳しく、左派に甘いのか
- しかも、ルペンは有罪なのに、なぜ2027年大統領選に出られるのか
コモサバ:
これらが分かって、ちょっとすっきりしました。
K子:
疑問を持つことは良いことだ、何に対しても、そこが出発点だから。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
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