🥐第48回「Parcoursup、学生はなんでそんなに嫌がるのか?」
☕イントロダクション
5週間以上続いた、フランスの学生運動において、政府が譲歩を見せた。
それは『parcoupsup』という高校後の進学のために使われるオンライン出願システムを廃止し、別な方法に差し替えるというもの。
今すぐに、と言うわけにはいかないが、2028年には、新しい仕組みへ置き換える方針を発表した。
学生から「廃止」要求が出ていた、超嫌われモノのこのシステム。
いったいどんなシステムなのだろう?
そういえば、私自身も良く知らないな、そう思って、今回はこのparcoupsupシステムについて調べることにした。
✉️ このニュースレターは…
「これから、フランスはどうなっていくのか?」
既存メディアや一次資料からフランスの社会事情を読み解き、「だから今、何を考え、何をすべきか」を探るニュースレターです。
シリアスなフランス語ニュースも日本語で味つけ。蓋を開ければ「酒の肴」──そんな鯖缶のような通称「鯖刊」です。
📝parcoupsup導入の意外な目的
まず、Parcoursupは、2018年1月15日、マクロン大統領の第1期目、エドゥアール・フィリップ内閣の時に始まった。
当時の担当者は、教育大臣(高校までの教育を担当)ジャン=ミシェル・ブランケール。
高等教育・研究・イノベーション大臣(大学などを担当)フレデリック・ヴィダル。
と、つまり8年前に始まった制度。
その当時、政府が掲げた、導入の目的は、
「抽選をなくす。」
?!、ちょっと待って。
ちゅ、抽選?
大学入学が決まるか決まらないかをくじ引きで決める?!
これを知って私は、フランスの大学入学の仕組みをもっと掘る必要があると思った。
💯フランスのバカロレアの歴史
調べてみたら、フランスのバカロレアの仕組みはめちゃくちゃ古い。
なんと、バカロレアの起源自体は中世までさかのぼる。
しかし、現在につながるバカロレアが形作られたと思われるのは、1800年代初頭の帝政ナポレオン時代。
1808年。中等教育の修了を証明し、高等教育へのアクセスを開く資格として、バカロレアが整備。
当時は、答案用紙に解答を書く試験ではなく、試験官の前で質問に答える「口頭試験」だった。
その後、
1830年。フランス語の文章を書く、筆記試験が導入される。
それまでの口頭試験に加え、フランス語の文章を書く課題が導入される。自分で文章を作るか、古典作家の文章をフランス語に訳すものだった。
バカロレアの科目は、時代とともに変わってきたが、主にフランス語、ラテン語、哲学、数学、物理、歴史などで構成されてきた。
それから時が経って、
1968年。一般のバカロレアは、
- 哲学・文学のA、
- 経済・社会のB、
- 数学・物理のC、
- 数学・自然科学のD、
- 数学・技術のE
という五つの区分になる。
その後、
1995年。一般バカロレアの試験は、
文学系のL、
経済社会系のES、
理系のS
という三つの区分に再編された。
そしてさらに、
2021年。 一般バカロレアのL・ES・Sという三つの区分が廃止される。
代わりに、全員が学ぶ共通科目というものができる。
共通科目は、
- フランス語
- 哲学
- 歴史・地理
- 外国語2言語
- 科学の共通授業〔物理化学や生命・地球科学などを横断して学ぶ〕
- 道徳・市民教育
- 体育
そこから、
自分の関心や進路に合わせて「専門科目」を組み合わせる仕組みになった。
高校2年目に3科目を選び、最終学年では、そのうち2科目を残して深く学ぶ。
例えば、「数学・物理化学・経済社会」を選び、最終学年には「数学・経済社会」を残す、といった学び方だ。
🧑🎓1984年のサヴァリ法
さてここで、先ほどのなんで大学への入学に「抽選」が登場したのか?に戻る。
その背景を知るために重要なのが、1984年のサヴァリ法というもの。
この法律は、バカロレア取得者にすでに高等教育の門戸を開いているので、一般の大学課程では、入学時に改めて学力で選抜しないという原則を定めたもの。
バカロレアに合格したのだから、大学で学ぶ資格はあるので、大学の入口で、もう一度「成績順にふるい落とすことはしない」という考え方だ。
(しかし、BTS(=Brevet de technicien supérieur 高等技術者免状)やグランゼコール準備学級など、選抜が認められる例外もある。)
ただし、学ぶ資格があることと、希望する大学・学科に空席があることは別問題。
応募者が定員を超える機会が度々起こる。
その場合は、住所や家庭状況、本人の志望を考慮して、入学先を振り分けることにしていた。
つまり、ある大学の心理学課程に応募する場合、まず地元の応募者が優先される。
さらに、その中で「ここが第一志望」という人が「第三志望」という人より先になる。
しかし、それらの条件でも区別できない人が、残りの席数を上回ったら?
例えば、残り100席に、同じ地域に住み、その課程を第一志望にしている人が300人いたとする。しかし、成績で選ぶことはサヴァリ法によって禁止されている。
そこでどうしたかというと、
最後の手段として、コンピューターによる抽選が行われたのだ。
サヴァリ法が抽選を命じたわけではないが、「学力で選抜しない」という原則と、「全員を受け入れる席はない」という現実の間で、条件でも振り分けられない応募者を、最後は運で分けたのだ。
そして、この抽選をなくすことを大きな目的の一つとして導入されたのが、Parcoursup。
ちなみに、このサヴァリ法ができた当時は、バカロレア取得者は同年代人口の約3割。
ところが2018年ではそれが約8割に増えている。
大学への道が、より多くの人に開かれるのに対し、希望する課程の席が、それに合わせて十分に増えたわけではない。
学ぶ資格を持つ人は増え、人気の課程には応募が集中する。それでも、成績では選ばない。
つまり、条件では区別できない応募者を、最後に抽選で振り分ける問題が深刻になっていったという背景がある。
🎓そこで登場したParcoursupは、どんな仕組みだったのか?
もしもあなたが、大学進学を目指す若者だったとして、もしくは、あなたのお子さんがこれから大学を目指す高校生だったとして、実際にこのParcoursupを使ってみると仮定しよう。
まず、このParcoursupは、「どこで、何を学びたいか」を探すツールでもある。
そこで、実際そのサイトに行ってみる。
👉 Parcoursup
もしも、「経済学」を学びたいと思ったら、キーワードで検索の欄に「Économie:経済学」、zone:場所の欄に例えば「Paris:パリ」と入れる。
すると、経済学が学べる大学が、ずらっと候補に現れる。
出てきた課程の案内を、一つずつ開く。
見てみると、同じ経済学でも、何を学べるのか。ほかの分野も一緒に学ぶのか。そして、入学の選考では、どんな成績や能力が重視されるのか。
の説明がズラッと並ぶ。
そうした情報を見比べながら、出願先を探していくことになる。
ここで、各大学の授業内容や出願条件、選考で重視される項目などを調べたら、希望する課程に出願する。
フランスの場合、9月が新学年開始。そして、その約3か月後の、12月ごろから最新のparcoursupの進学先の情報を閲覧することができるようになり、年明けの1月ごろから、出願用アカウントを作り、希望する課程を登録する流れになる。
例えば、このパリ第1大学パンテオン=ソルボンヌの経済学課程のページを見てみよう。
青いボタン、「Voir la formation」を押すと、授業内容や出願条件、選考で重視される項目などが書かれたページが現れる。
parcoursupでは、最大10件、希望進路の申し込みができる。
- A大学の経済学 → 1件
- B大学の経済学 → 1件
- C大学の社会学 → 1件
など。
同じ大学の別な学部という選択肢ももちろんあり。
- A大学の経済学 → 1件
- A大学の心理学 → 1件
- A大学の社会学 → 1件
ここで、
高校での成績や教師の評価などが出願書類として送られる。
課程によっては、志望理由の提出や、面接・試験なども求められる場合もある。
しかし、ここで一つ、疑問がわく。
高校も教師も違うのに、その成績や評価を、「共通の物差し」として使えるのだろうか?
厳しく点数をつける先生もいれば、比較的高い点数をつける先生もいるだろう。「意欲がある」「自主性がある」といった評価にも、教師による見方の違いや、無意識の思い込みが入り込む余地はある。
ここに、学生が納得しにくい理由の一つがある。
さらに、その出願書類を審査するのも、各大学・学校の教員らでつくる委員会だ。
もちろん、あらかじめ示した基準に沿って審査する。しかし、書類を読む側も人間である以上、評価する人によって判断が違う可能性はないのだろうか。
高校の教師が評価し、その評価を、今度は進学先の教員が評価する。
こうして決まった順位が、どのような判断の積み重ねによるものなのか、応募者からは見えにくい。
さらにさらに、一般の大学課程で、応募者が定員を超えれば、受け入れる順番をつけることになるが、この基準も人的評価が基準。
その順位をもとに、奨学生や地域に関する優先ルールなども反映して、入学の案内が送られてくる。
たとえば先ほどのパリ第1大学パンテオン=ソルボンヌの経済学科の定員は500人。昨年、そこに応募があったのは10,453人。
ただし、この中から500人だけを選び、一斉に合格を出して終わり、ではない。
辞退する人が出るたび、次の人へ入学の案内が回る。実際、この年に案内を受けたのは2,972人。そのうち、この課程への進学を選んだのは494人。
そこで、この最初の10,453人から、最終的に500人に絞られるまでに、学生側には大きく分けると次のような結果が届く。
- 入学できます。
- 補習などの学習支援を受ける条件で、入学できます。
- 順番待ちです。
「順番待ち」は、その名のとおり、先に入学を案内された人が辞退するのを待つ状態。
例えば、B大学から「入学できます」の案内が来た。でも、本当に行きたいA大学では順番待ちだったとしよう。
この場合、B大学への入学をいったん承諾しながら、A大学の順番待ちを続けることができる。
その後、本命のA大学から案内が来れば、B大学を辞退してA大学を選べる。
すると、B大学で空いた席が、次の応募者へ回る。
こうしたやり取りをえんえんと繰り返し、進学先が決まっていく。
つまり、「学生が希望を出す→各課程が審査する→学生が届いた案内から選ぶ→空いた席が次の人へ回る」。これを共通サイトで進めるのが、Parcoursupの基本的な仕組みというわけだ。
確かに抽選はなくなったかもしれないが、席に限りがあれば、希望する課程から案内が届くか分からないまま、待ち続けることになるし、手続きの終了まで待っても、希望する課程に入れるとは限らない。
抽選か、Parcoursupか…どちらがマシかと聞かれても、正直返答に困る...。
😣Parcoursup、何がそこまで嫌なのか?
まず一つ目の理由は、「自分の順位の理由が分からない」点だという。
例えば、先ほどのパリ第1大学の経済学課程では、学校の成績が65%、学習方法や能力などが30%、態度などが1%、志望動機が4%と示されている。
何を重視するのかは、確かに書いてあるが、「教師の評価は、どう点数に置き換えられたのか」、「自分とほかの応募者との間で、何が決め手になったのか」などは正直わからない。
よく言われる不満は、主に高校2年・3年の成績や評価が進路に響くので、「高校生活まるまる2年間で全く気が抜けない」というもの。
Parcoursupでは、高校での日々の成績や、教師の評価が出願書類に入る。
一度の試験だけで判断しないことには、良さもある。長く続けてきた努力を見てもらえる。
しかし、普段の成績が進路に響くとなれば、毎回のテストで気が抜けない。
さらに、学校や教師によって採点の厳しさが違うとしたら、同じ点数をどう比較するのか。
つまり、勉強は大事なのはわかる。しかし、「自分の努力がほかの学校の生徒と公平に比べられているのか?」という疑問もあるため、努力するにも、何をどう評価されるのか分からないことに納得できない、というのが学生の主張だ。
そして、二つ目は順番待ち。
B大学への進学は確保できた。でも、本命のA大学からは、まだ案内が来ない。
だったら、「もう少し待ちたい」と私も思うだろう。
しかし、A大学とB大学が別の街にあれば、住む場所を探すにも迷う。
B大学のある街で部屋を借りた後に、A大学から案内が来たらどうしよう…といった可能性さえある。
手続きには終了時期があり、その日まで待てば、希望する席が手に入る保証はないのだ。
つまり、「可能性が残っている」ことが、決断できない理由になる。
じゃあ、どこを改善したらいいのか?
その提案は出ていないのか?
💮Parcoursupの改善案
今回政府は、2027年の選考から基準をより分かりやすく公開し、不合格の理由を説明する方針を発表した。
ただし、これは「なぜ不合格か」の説明はあっても、「なぜ自分がこの順位なのか」まで説明してくれるとは限らない。
そして、順番待ちを短くするための変更は、すでに始まっていた。
2025年からは、待っている進学先に「第一希望、第二希望……」と順番をつける時期を、7月から6月に早めたのだ。
例えば、第一希望がA大学、第二希望がB大学、第三希望がC大学だとする。
B大学から「入学できます」と連絡が来たら、その席を確保しながら、第一希望のA大学を待つことはできる。一方、B大学より希望順位の低いC大学の順番待ちは、自動的に取り消される。
こうして、「入れることになっても、もう選ばない大学」の順番待ちを早めに整理し、ほかの人へ入学の案内が回るのを早くしようという試みは既にあるのだ。
ただし、大学の席そのものが増えるわけではないので、これだけで順番待ちがなくなるわけではない。
また、今回政府は、応募が集中するところの席を増やす方針も発表した。
2027〜2028年に計1万5,000席を増やすという。
内訳はBTSが1万席、BUTが4,000席、健康分野の大学課程が1,000席。需要が強い分野・地域を優先する方針らしい。
🍺エピローグ
今回、Parcoursupを調べて、私には最後まで腑に落ちないことが残った。
バカロレアという全国共通の試験があるのに、なぜ、その成績でもっと明快に選べないのだろう?
なぜバカロレアをもっと個人の実力が分かるような設計にしないのだろう?
もちろん、一度の試験だけでは見えない努力もあるかもしれない。
私の経験では、日本では、授業が試験対策に偏る傾向があるのも確かに良くないとは思う。
しかし、全員に共通のテストの点数が合否の判定基準なら、選ばれなかった悔しさはあっても、どう評価されたのかは分かる。
評価の明確さを目指すなら、「共通の物差し」ではかるのは当然じゃないのか?
さらに「サヴァリ法」も正直良く分からない。
大学側が抽選で決めるくらいなら、成績順にふるい落とす方が公平なんじゃないの?と。
あなたはどう思いますか?
🤓ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
このぶんだと、このParcoursupの全面的な改変を行うのは、マクロン政権の次の大統領の政権に託されることになるのではないだろうか。
なんとなく、マクロン政権はつくづく無責任だな、と思ってしまいました。
財政赤字にしろ、年金受け取り年齢引き上げにしろ、私には自分たちは何にもせずに次の人に丸投げに見えてしょうがないです。
ぜひ、下にある吹き出しマークからコメントをお寄せください(コメントにはログインが必要です)。
また、このニュースレターでは、「ここが気になった」という一文に線を引き、その部分へコメントできます。何も書かずに「コメント」ボタンを押す、ハイライトだけの反応も大歓迎です。
あなたがどこに引っかかったのか、とても参考になります。
「とりあえず応援!」という方は、ハートマークを押していただけるだけでも、十分励みになります。
それでは、また来週の土曜日に。お会いしましょう、ね?
参考資料:
Le Monde:Parcoursup et le contrôle continu : à la recherche de l’équité entre candidats
Legifrance.gouv.fr:Loi n°84-52 du 26 janvier 1984 sur l'enseignement supérieur=la loi Savary
La galaxie Sénat:A quoi sert le baccalauréat ?
INSEE:Niveau d’éducation de la population
Rapport public Parcoursup session 2025:Université Paris 1 Panthéon Sorbonne - Licence - Economie
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